カップ麺のフタで学ぶ型式学:考古学者は「微細な変化」から時代をハックする
「型式学なんて、ただの古いモノの分類でしょ?」
もしそう思っているなら、今すぐコンビニへ行って、カップ麺の棚を眺めてみてください。そこには、数千年前の考古学者が土器の破片を前にして行っていることと、まったく同じ「デザインの進化論」がリアルタイムで繰り広げられています。
今回は、現代のカップ麺の「フタ」と「容器」を例に、型式学の思考プロセスを完全にマスターしてみましょう。
1. なぜカップ麺のフタには「耳」が2つあるのか?
ここ数年で、誰もが知る有名カップヌードルのフタの形状が変わったのをご存知でしょうか。
かつては、フタをはがすための「つまみ(耳)」は1つでした。そして、お湯を入れた後にフタが浮かないよう、容器の底に「フタ止めシール」という小さなプラスチックのシールが貼られていました。
しかし現在、そのシールは廃止され、フタのつまみ(耳)が2つに増えています。フタを閉めるときに、2つの耳を容器のフチに折り曲げて引っ掛けることで、シールがなくてもフタが留まるようになったのです。形がまるで猫の顔のようだからと、フタの裏に猫のイラストが印刷されて話題になりましたよね。
これこそが、型式学が最も大好物とする「形態の変化」です。
未来の考古学者が、プラスチックが奇跡的に残った地層から、この2種類のカップ麺のフタを発掘したとします。文字情報が読めなくなっていても、型式学者はこう推理します。
型式α(古い): つまみが1つ。容器の底にシールを貼っていた形跡(糊の跡など)がある。工程が2つ必要で、プラスチックの無駄も多い。
型式β(新しい): つまみが2つ。シールがなくてもフタ自体で自立して閉まる。プラスチック削減(エコ)という社会的要請に応えた、より洗練された合理的な形。
「なるほど、利便性と環境配慮の歴史的プロセスから見て、【α → β】の順に時代が流れたんだな」
こうして、西暦という文字データがなくても、モノの形の特徴だけで新旧のタイムライン(系列)を組み立てる。これが型式学の基本ロジックです。
2. 「ガラケーのボタン」と「土器の取っ手」の共通点
型式学には、「機能が変わっても、古い形の一部がデザインとして残り続ける(痕跡器官)」という面白い法則があります。
これを現代のスマホの歴史(2000年代〜2020年代)で見てみると、非常に鮮やかです。
初期のガラケー: 画面の下に、物理的な数字ボタンがびっしり並んでいる。
初期のスマホ(過渡期): 画面はタッチパネルになったが、最下部に「ホームボタン」「戻るボタン」などの物理ボタンがいくつか残っている。
現代のスマホ: 物理ボタンは完全に消失し、全面ガラスのノッチレス(あるいはパンチホール)デザインになる。
この真ん中の「初期スマホの物理ボタン」こそが、型式学でいう「退化のプロセスにある痕跡」です。人間はいきなり全く新しい形を受け入れることができないため、前の時代の使い慣れた形をデザインとして残してしまうのです。
これ、古代の土器でも全く同じことが起きています。 かつて「紐を通して吊り下げるため」に必須だった土器の側面の凸凹(突起や取っ手)が、技術が進んで地べたに置けるようになっても、なぜか数百年もの間、「ただのデザイン(文様)」として土器の表面に小さく残り続けるのです。
未来のスマホ考古学者も、古代の土器考古学者も、この「消えかかっている古いパーツ」の大きさを測ることで、「これはボタン(取っ手)がまだ残っているから、あの型式のすぐ後の時代だな」とピンポイントで時期を特定しています。
3. 型式学とは「人間のクセ」を分類する学問
なぜモノの形で時代が分かるのか。それは、人間には「新しいアイデアをゼロから思いつくのは難しいが、今あるモノをちょっとずつ改良したり、流行っている形を真似したりするのは得意」という、時代を超えた普遍的なクセ(習性)があるからです。
コンビニの棚にあるお菓子のパッケージも、自動車のフロントグリルの形も、すべて前の世代の形をコピーしながら、時代の要請(エコ、安全性、コスト削減)というフィルターを通って、今その形になっています。
【あとがきにかえて】 もし、今夜あなたが深夜の誘惑に負けてカップ麺を食べるときは、お湯を注ぐ前に、そのフタの「耳」をじっと見つめてみてください。
その耳が2つあること。それが、私たちが生きる21世紀初頭の「脱プラスチック」「ゴミ削減」という時代精神を、モノの形そのものが雄弁に語っている証拠(型式)なのです。
古い土器も、現代のカップ麺も、語りかけてくる言語は同じです。モノの形の裏にある「人間の試行錯誤」に気づいたとき、目の前の日常は、一気にエキサイティングな歴史の教科書へと変わるのです。


じゅんじゅんさん
目のつけどころがすごく面白くて、つい読み進めてしまいました!
最初にこちらを拝見したので、遡りたいとおもいます✨